研究の思い出 橋梁維持管理の研究をはじめたのは高専5年生からなので、もう5年が経つことになる。大学生活よりも研究生活の方が長いことになる。実際に研究した期間は高専の卒研配属時の1年、大学学部で1年、修士で2年の計4年である。改めて計算すると、研究生活だけでも長いものになる。もっとも、私の性分と先生方の性分で、研究室で寝泊まりするほど研究に打ち込むことはなかった。研究生活の忙しさは担当教授の性格に依存するので、運がよかったといえるだろう。ごく平凡な生活をさせてもらった。高専時の研究はマニュアルのデータ化(マクロ化)だった。社会基盤施設の状態は点検によって把握しなければならない。点検は、国交省で作成される写真判定例を参照しながらおこなわれ、結果を個別施設の状態をまとめ用の紙に書き込む。このとき作成される紙のデータは、データベースにまとめるときに、電子化する手間がかかることになる。紙上のデータを見ながらパソコンにデータを打つ時間は無駄である。この手間を削減するために少々手伝いをしたのである。簡潔に研究内容をまとめると、Excel上で国交省のマニュアルを再現したのである。このときマクロ機能を追加し、写真判定をクリックすることで、対象部材の点検結果がまとめ用データシートに入力されるというものである。要は写真判定例を片手に対象部材を見て、似た損傷形態の写真があればそれをクリックするだけで点検を終えることができるというものを作成した。ハンドヘルドPCにそのファイルを入れておけば、紙媒体を経由する必要もない。研究成果は他にも少しあるが、当時の研究生活について少し書いておきたい。特別なことはないのだが、日記的に残しておこうと思っている。吾輩は猫であるの「吾輩」は日記などと無用の長物を残しだがるのは人間だけだと言っていたのを何故か思い出した。研究開始当初は「お前はマニュアルをつくれ」という指示だけが与えられていた。もちろんこれだけでは何をしていいか分からない。しばらくは「橋梁点検」「点検マニュアル」などのキーワードでインターネット検索して、資料を探していた。いくらか資料を集めたが、どれも私には難しかった。というか終着点を決めていないのに有益な資料がみつかるはずもない。はじめ一月くらいは研究室でコーヒーを飲んで菓子を食っているだけの生活を送った。その後、改めて先生に、もう少し具体的に教えてくださいと頼んだところで、ようやくやるべきことがわかった。先に述べたことである。ここから研究室に籠ってずっとVBAの勉強をしていた。参考書を学校で購入してもらい、ひたすら例題を解いた。参考書を一周したあたりで自分でもできそうだという自信がついてきた。そこで写真判定を見ながらまとめ用データシートにデータを入力できないかと考えるようになった。このとき、別の研究生が実際の構造物の点検をおこなっていたのに同行させてもらい、実務ではどんな機能が必要かを考えた。①写真を参照しながらのまとめ用データシートへの記入②構造物によって異なる部材数によるデータシートの拡大が問題になるように思われた。①については既に検討していたが、②は少し骨がいるなと感じた。こんな風に書くとずいぶん真面目な研究生活と思われるかもしれないが、実際は暢気なもので、2人して山中の道の駅で先生に饅頭をねだって食っていたのである。なぜかその饅頭が異様に美味く感じたが気のせいだろうか。後に②に着手したが、実はこれが非常に面倒な作業であった。最初に点検する部材数が分かっている場合には、事前にまとめ用シートを整えていけば良いが、設計者であってもそんなことは困難であろう。そのため、現場でシートを作り直す必要がある。記入欄がいっぱいになったら欄を追加するマクロを組めば良いだけだが、行を挿入すると周囲の項目も増えてしまい、問題となるケースがあって難儀した。この状態になってから、プログラムの挙動を紙面上に書くことにした。この動きをするためにVBAではこの処理をさせるとメモを取っておく。見た目(PC上の表現)から内部の処理を想像するようにしたわけである。以降大変作業がはかどるようになった。それにしても、紙媒体の使用を減らすために始めた研究なのに、結局紙に頼っていることを思うと面白い。最後には、VBAはセルを基準として命令しなければならないと気づき、言語の特性を理解した上で処理を書けるようになった。こうなれば、できない命令を書くこともないし、できる命令に置き換えることもできる。ここまで達したときにちょうど期限となったので研究をまとめることになった。もう追加すべき機能もなかったのですんなりとまとめられた。研究内容以外のところでは、だいたい格闘ゲームかモンハンをして過ごしていたように覚えている。午前中は研究をして、昼休みと放課後はゲームばかりしていた。今思うとキチガイのように時間をかけていたのだが、その分苦い思い出も殆どないのでよかったかもしれない。朝一番にコーヒーを作って、先生と雑談していたのが懐かしい。思えば研究に親しみをもって生きることの一端を味わったのもこのときかもしれない。先生も最近は気力体力共にすっかり衰えたと弟達から聞いている。医者に通って休む日も増えたそうで心配している。秋に母校を訪れたときにお会いしたが、元気な様子であったので安心した。今は車両を用いた非破壊試験にお熱のようで、アスファルト下の床版の劣化状態を知るべく、共同研究を準備しているとのことだった。お手伝いできることもないので挨拶のみで暇乞いしたが、次はどこで会うことになるかわからないので、もう少し話しておけばよかったと若干後悔している。 PR