小林秀雄さんのこと -1- 小林秀雄さんを知ったのは修士1年の5月だった。私は修士の研究で脳の構造を模した技術を援用していた。当時は研究が始まったばかりで、暇を持て余していたため、脳科学に関する本を少し読んでみることにした。古本屋を30分ほどうろうろして、茂木健一郎さんの「脳と仮想」という文庫本を見つけた。新潮文庫の薄い本だったため、不勉強な私でも読み通せるだろうと思い購入した。折り返しに小林秀雄賞受賞と書いてあったが、このときは対して意識しなかった。家に帰り早速読み始めると、そのほとんどが小林さんの講演の引用であった。小林さんの講演を引用し、茂木さんが自身の経験を踏まえてその補足をするものだったと記憶している。私としては茂木さんの考えを読みたかったのに、未知の男の講演で煙に巻かれたようだった。引用の多さにうんざりしながらも通読したが、わかったのは、小林秀雄という人物が偉大な仕事をしたということだけであった。それからしばらくは小林さんのことを忘れて生活をしていたのだが、何かの用事で訪れた、普段使わない文系図書館で、小林さんの講演CDを発見した。このとき、脳と仮想のタネであることを思い出し、借りてみたのがはじまりだった。それにしても、どうしてCDコーナーを眺めていたのか思い出すことができない。そもそも研究する分には文系図書館に用事はない。ともかく、私はそのCDを聴いてみることにした。私は有無を言わさず頭をやられた。 PR